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The CCR4-NOT deadenylase complex controls Atg7-dependent cell death and heart function. Yamaguchi T, et al. Science Signaling 11, eaan3638, 6 February 2018.
細胞内における遺伝子発現調節においてmRNA分解を介したmRNAの量的、質的な制御は重要なプロセスです。mRNA分解の第一段階は、mRNAのpoly(A)鎖の短縮および除去、すなわち脱アデニル化と呼ばれる過程によって開始されますが、CCR4-NOT複合体は複数のコアタンパク質、脱アデニル化酵素、およびRNA結合タンパク質との相互作用により脱アデニル化の中心的な役割を担うタンパク質複合体であることが知られております。私たちの研究室ではこれまでに、ショウジョウバエにおける大規模なin vivo RNAi心不全スクリーニングによりCCR4-NOT複合体を新たな心機能調節因子として見出していました(Kuba K. et al. Cell 2010)。しかしながら、心臓の機能調節においてCCR4-NOT複合体によるRNA分解の生理的意義、役割はよくわかっていませんでした。そこで、まずCCR4-NOT複合体の主要な足場タンパク質であるCnot1またはCnot3の遺伝子発現を筋肉特異的に欠失させた遺伝子ノックアウトマウスを作製し、心臓の機能評価を行いました。その結果、Cnot1またはCnot3の欠失は心臓肥大、収縮力の低下、QT延長、ならびに心筋細胞死を伴う致死的な心不全を誘導することがわかりました。
CCR4-NOT複合体の標的mRNAの探索、遺伝子発現解析、ならびにpoly(A)鎖長の解析により、CCR4-NOT複合体が脱アデニル化を介して複数のオートファジー関連タンパク質の遺伝子発現を調節していることがわかりました。その中でも主要なオートファジー調節因子であるAtg7をコードするmRNAにCnot3が強固に結合し、翻訳制御を行っていることを見出しました。実際にCnot1もしくはCnot3の欠損により生じた心不全病態はAtg7の二重欠損により回復が見られ、心不全の病態がAtg7の働きに強く依存している可能性が考えられました。Cnot3を欠損した心筋細胞や線維芽細胞では、Atg7ならびに転写因子p53の発現が著しく上昇し、Atg7はp53と結合し、p53とともに核内に移行することを観察しました。さらに、Atg7はp53の標的遺伝子であるPuma、Ripk3などの細胞死関連因子の転写発現を誘導することで、細胞死を亢進させていることが明らかとなりました。
以上の結果から、心不全の病態では、通常オートファジーが細胞によい効果をもたらす作用とはまったく異なるメカニズムでAtg7が心不全を悪化させる可能性があり、CCR4-NOT複合体はAtg7 mRNAの分解を促進させることで心不全の重篤化を防いでいることがわかりました。以上の発見は、オートファジータンパク質の活性やRNA分解を標的とした、既存の循環器学にはない心不全の診断・治療法の開発に繋がることが期待されます。